認知症の方の数は,平成30年に全国で500万人を超え,65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症と見込まれている。そして,高齢者は右京区に約55,000人在住※
今や,家族や身近な人に認知症や要介護の方がおられる方も多いだろうが,日常的に接することがないと,当事者のことを,そして彼ら彼女らを支援している方々のことをあまり「知らない」のではないか。
そんなことが気にかかり,高齢者福祉施設西院の所長,河本歩美さんを訪ねた。
※令和元年10月1日現在
福祉が地域を変えていく
河本さんは,自分の仕事についてこう語る。
「福祉関係者だけでなく,住民や企業も一緒になって知恵を絞れば,認知症の方や高齢者が生き生きと暮らせるようになるはず。地域がより良く変わっていくことも,私たちの仕事の成果のひとつです。」
だから,と続ける。
「私たちの取組におもしろがって参加してもらえれば,「自分ごと」として捉えてもらえると思っています。」
そんな「おもしろい」取組を,ふたつご紹介したい。
「知って」を受け取る
「市民,企業,NPO,大学などの多種多様な組織や個人が,京都で社会的課題の解決に挑戦することで,過度の効率性や競争原理とは異なる価値観を日本はもとより,世界にも広めること。」
京都市が推進するソーシャル・イノベーション・クラスター構想の目的だ。
この理念を体現する取組が同施設にある。
デイサービスを利用されている認知症や要介護の方々が,ひとつひとつ磨き上げたまな板やグラタン皿。
ブランド名は「sitte」。
「知って」欲しいという「想い」が込められている。
「何かしら支援が必要だけど,できることがたくさんあることを知ってほしい。」
「やりたいことが沢山あって,日々,楽しんで過ごしていることを知ってほしい。」
河本さんをはじめ,スタッフの皆さんのそんな「想い」だ。
当たり前にある生活を継続していくこと,社会とつながり続けることへの挑戦。
まな板を磨いたのは,物言わぬ機械ではなく,職人技はないけれどそこに生きる喜びを見出した人。
製品を手に取るのは,値札ではなく店頭に並ぶまでの物語に惹かれた人。
その価値は,効率性や競争原理に左右されることなく,作り手と受け手によって無限に広がるだろう。
社会的課題と個人的課題
それともうひとつ,同施設では定期的に「おいでやす食堂」を開催している。
子どもから高齢者まで,誰もが集まり交流できるみんなの居場所だ。地域に暮らす人々が,お互いを気にかけるきっかけづくりとして機能している。
河本さんにご趣味を聞いてみた。
「京都マラソンには3回連続出ているけど…仕事が趣味みたいなものです。何か違うことをやっていても,「あ,これワークショップに使えるかな?」とか考えてしまったり。」
「仕事に結びつかない趣味をみつけたい!」
個人的課題であるワーカホリックの解決も,願ってやまない。
=おわり=