京都市街から162号線を車で北上すること、約1時間。高雄を超えて次第に深くなる森を抜けると、そこは京北。美しい桜や常照皇寺などの文化財が有名ですが、今回はそこに新しくできたクラフトビール工房「KYOTO NUDE BREWERY」と、そこで働く若手の方々をご紹介します。
京北の秘境、余野
京北住民でも、中々足を踏み入れることの無い、細野の余野地域。そこにビール工房ができたとの噂を聞きつけ、人生で初めて余野地域に潜入します。京都市街の側から余野地域に行くには、162号線の笠トンネルを出てすぐに右折します。
そこからひたすら森を抜けていくと、5分ほどで徐々に視界が開けていき、余野地域に到着です。そこから少し進むと、丘の上に近代的なグレーの建物が見えてきます。念願の「KYOTO NUDE BREWERY」です。
工房内に潜入
「工房の中はどうなっているのだろう・・・」。期待が膨らむ中、醸造責任者である上甲(じょうこう)さんのご案内で快く工房内に入れて頂くと、そこには衛生面に配慮された、清潔で近代的な空間が広がっていました。
「どうぞ上からも見てください」とのお言葉に甘えて踊り場から撮影すると、銀色の美しいタンクが並ぶ景色が壮観。ですが、上甲さん曰く「これでも小~中型なので、それほど大きくないですよ」とのこと。
上甲さんとビールとの出会い
上甲博之さんは、大阪府出身。現在、三十代の若さで工房の醸造責任者をされています。他のスタッフ2名を含め、それぞれ北区、左京区、右京区から通勤されています。高雄から京北までの山道も、もう慣れたとのこと。
上甲さんとビールとの出会いですが、意外にも最初はビールが得意ではなかったそう。しかし、何気なく立ち寄った大学近くのクラフトビール専門店で、人生を変える一杯に出会います。
それが、山梨の老舗醸造所で作られる、富士桜高原麦酒のヴァイツェンというホワイトビール。度数が低いのにしっかりとした酵母の香りと味わいがあり、ビールに対する印象がガラリと変わりました。
上甲さんにはもともと飲食店をやりたいという夢がありましたが、こうした経験を通じ、飲食店を経営するならば、自分の取り扱うものについては一から知っておきたいとの考えから一念発起。大学卒業後にビール専門店での2年間を経て、その後著名なクラフトビールメーカーで6年ほど経験を積んだのち、今の会社から「京北で新しく立ち上げる醸造所で働かないか」と声を掛けられ、今に至ります。
それにしても、新卒からいきなりクラフトビール業界で働くというのは中々ない経験だと思いますが、現在のクラフトビール業界は異業種からの転職も多かったり、「醸造科学科(東京農業大学)」など、専門的な知識を備えた上で業界に入ってくる人も増えてきたとのこと。
工房での一日
ここでの仕事は、1日に1つの事柄を全うするスタイル。仕込みの際は、麦芽を仕込み釜に入れ、一日かけて麦汁を作る作業があったり、別の日は充てん作業や出荷作業に専念したりと様々です。
私が伺った日は、発酵槽(タンク)や工房内の清掃でしたが、全体として一番費やす時間が多く、実に作業の8割を占めるのが清掃だそうです。ビールは酵母があってこそなので、床や設備を常に清潔にし、酵母の健康を保つのが生命線なんですね。
クラフトビールの現在地
最近は、京都府下でもクラフトビールの醸造所自体が増えつつあり、トレンドとしては華やかなホップの香りを残したものや、後味がスッキリ爽やかなものが主流のようです。
上甲さん曰く、「香りの出し方は、酵母由来の香りや、何百種類とあるホップの香り等、様々な要素で決まりますが、うちの工房ではホップを適度に使用することで、香りが華やかな製品が多いです。大手ビールメーカーは酵母を濾過して取り除くのに対し、ここでは濾過をしていないので、酵母がそのまま生きた状態で届きます」とのこと。
また、コロナ禍の巣籠もり事情から、家でも気軽に飲める缶ビールの需要が増え、専門店を介さず直接消費者に製品を届けることができるようになったことや、京都の観光地で京都のビールが扱いたいという声が高まりつつあり、お土産屋やイタリアンレストランなどでも扱ってもらえる店が増えてきたことなどを受け、最近は様々な場面でクラフトビールを目にする機会が増えており、上甲さんも「クラフトビール自体が以前よりもカジュアルになりつつある」と感じておられるそう。今後は、お年寄りや主婦などのライト層にも広げていきたいそうです。
まだまた暑い季節が続きますが、「うちは度数が軽くて、でも味わいや香りの特徴がしっかりあるので、ゴクゴク飲めるビールが揃っています。通常は度数が軽いとどうしても薄くなりがちなんですが、きちんと飲みごたえを感じられるように設計して作っていますので、これからの季節におススメです」とのこと。残暑は、KYOTO NUDE BREWERY の爽やかなビールで乗り切りたいですね。
今後の目標について
「やはり将来的に飲食店をやりたいと思っているので、ずっとここにいる訳ではないと思います。ただ、バリバリやりたいというよりも、自分がのんびりできる範囲で、扱うものは全て1~10まで説明できるような規模感でやりたいですね」と力強く自身の目標を語ってくださった上甲さん。今後は次の醸造責任者を育成し、自身はサポートしながらのんびりできたらと考えておられるようです。
取材を終えて
上甲さんは、一つ一つの質問に対し、自分の言葉で誠実にご回答してくださっただけでなく「もっと上から撮ってみますか?」 「缶の包装の映像もあった方がいいですよね?」と様々なご提案もしていただき、撮影からインタビューまで非常にスムーズに進みました。
今回取材した KYOTO NUDE BREWERY は、現在一般向けの工房見学などはやっていないそうですが、大自然に囲まれてロケーションも非常に良く、美しい設備を見たあと、外のテラスでビールが飲めたら最高だと思うので、今後ぜひとも実現していただきたいです!
なお、KYOTO NUDE BREWERY のビールを飲んでみたい方は、西院にある角打ち[TRAM(トラム)」など直営店等で楽しむことができるので、ぜひ足を運んでみて下さいね!
ご協力いただいた皆様、本当にありがとうございました。