嵯峨商店街にある加藤就一さんのお店「プラッツ」を訪ねたのは,11月上旬の紅葉シーズンにはまだ早い頃。
それでも,お店の前を洋の東西を問わず外国人観光客がひっきりなしで往来し,様々な言語が聞こえてくる。
天龍寺御用達でもある座布団屋の5代目。
加藤さんの目から見た,右京の生活と観光,日本人と外国人とは。
外国人観光客を通して見る日本人
外国人観光客のマナー問題が取り沙汰されて久しい。
路上喫煙,飲食店やホテルのドタキャン,舞妓さんに対するパパラッチ的行為など…。観光の最前線に立つ加藤さんは,どう感じているのだろうか。
「外国人観光客のマナーは年々向上していますよ。日本に来る前に勉強してくれているようです。」
続けて,少しドキッとするような話題に。
「むしろ,マナーが悪化しているのは日本人観光客のほう。子どもが店の中で遊びまわっていても親が注意しない。こちらが注意したら「なにが悪いのか」というような反応をされることもあります。」
主語が「日本人観光客」に限ったことではなく「日本人」ということであれば,少し暗い気持ちになってしまうお話だ。
「平成のあいだに,日本人が日本人でなくなってしまったような気がしています。「お・も・て・な・し」って流行ったでしょう。だけど,人のためとか,思いやりとか,真剣に考えている人が減ってしまったような。」
顔を上げて商売を
「観光政策は,しっかりと方針を決めないと。」
例えば嵐山では,昼と夜ではずいぶんと趣が違う。渡月橋に向かう観光客が竹林のほうへ流れ,必然的に長辻通の売上が落ちてしまったとのこと。その竹林も整備が行き届かず荒れるいっぽう。最近ではゴミのポイ捨て問題が顕在化している…。観光を取り巻く環境のめまぐるしい変化は,課題を再生産し続けている。
「とにかく観光客がたくさん来ればいい,ではダメ。個人商店が潤う政策が必要です。とはいえ待っていられませんからね,お客さんが少ないなら少ないで販路を拡大するとか,何かしら打ってでないと。」
艱難汝を玉にす。ピンチ(危機)をチャンス(好機)とし,さらにチャレンジ(挑戦)するという極めて能動的な気概が見え隠れした。
「将来的に夢に描いている経営計画もあるんです。」
課題に対して悲観的になるのではなく,丁寧に立ち向かう加藤さんの夢には,鬼も笑わないはずだ。
かっこいい日常
「右京は,やっぱり住みやすいまちになってほしい。」
観光の視点からその理由を語ってくれた。
「観光の根底にあるのは日常です。ヨーロッパなんかを旅行したら,普通に市民が暮らしている住宅街がかっこよかったりしますよね,歩くだけでワクワクしたり。右京もそんなふうになってほしいです。外国人の目からみて魅力的なまちって,日本人が心豊かに暮らせるまちだと思う。」
この話を聴いて,少し右京のまちを歩いてみたくなった。どれだけのワクワクに出会えるだろう。
=終わり=