映画は現場で作られる〜遙かなるキネマの歴史〜 東映太秦映画村「映画図書室」へカムカム!〜後編〜

前編に引き続き、今回も2020年7月にオープンした、「東映太秦映画村・映画図書室」についてお届けします。

前編はこちらから!

「映画図書室」に集まった膨大で貴重な資料と、訪れるバラエティ豊かな皆さんのお話を伺った前回。今回も、「映画図書室」を担当する、東映経営戦略部アーカイブ・スクワッドの石川一郎さんにお話を伺いました。今回のテーマは、保存されている資料から読み解くことが出来る「映画づくりの奮闘」と、映画産業やアーカイブの魅力についてです。

 

■「脚本にはなかったセリフ」が生まれる現場

 

「上映された映画を見たあと、その映画の脚本をあらためて見てみると、「有名なあのセリフが、実は脚本には書かれてなかった」という例があるんですね。代表的な例が、夏目雅子さんが出演した「鬼龍院花子の生涯」(監督:五社英雄、1982年、東映)で夏目さん演じる松恵の有名なセリフ「なめたらいかんぜよ!」。保存されている印刷台本(高田宏治さん執筆)を見ると、あのセリフは脚本のどこにもないことが分かります。映画は、脚本ができれば完成ではなく、脚本をもとに現場で作り上げられているんです」(石川さん)

 

 

撮影現場でのスタッフの試行錯誤が、台本への“書き込み”からわかると教えてくれたのは、「映画図書室」の研究員の藤原征生さん。ご自身も、映画音楽の研究で大学院を修了されました。

「蒲田行進曲」(監督:深作欣二、1982年、松竹)の現場で記録(スクリプター)を担当した、故・田中美佐江さんの台本には、有名な「階段落ち」のシーンでどのような試行錯誤がなされたか、独特の省略された文字で事細かに書き込まれています。撮影されたものの採用されなかったカットの存在や、現場で台本を膨らませていく過程も克明に記録されています。そこからは、深作監督とスタッフ、現場のクリエイター同士のぶつかり合いが読み取れますね」(藤原さん)

「おそらく、田中さんにとっては、楽しかった現場の思い出が詰まった台本だったのではないでしょうか。それが「映画図書室」に寄贈され、ここで今でも見られるのは、とても貴重だと思います」(藤原さん)

※映画図書室ホームページ「ニューズレター(3月28日)」にて、書き込みのある台本の実際の写真を見ることが

できます。

 

「台本は現場で「そこから」映画を作るもの。映画は台本ができれば完成するのではなく、そこから直して、直して、現場でさらに作られていくものなんです。カメラマンはカメラマンで、自身のイメージするアングルについて台本に書きこんだりしています。みんな手書きでいっぱい書き込むので、後で見ると貴重だし、面白いですね」(石川さん)

 

保管されている台本を見せてくださる石川さん(右)と藤原さん(左)

「撮影時に何を検討していたか、その過程が分かる台本は(「映画図書室」のような場がなければ)、現場が終わったら捨てられていた可能性もあります。一つの仕事が終わったら、みんな次の仕事がありますからね。」(石川さん)

 

映画図書室の“楽しみ方”

そんなお話をしてくださったお二人に、最後に「映画図書室の楽しみ方」を伺いました。

「研究者目線になってしまいますが、年代別に並べられた台本の内容の移り変わりを見ていると、日本映画の推移が分かるんですよ。この時代は時代劇が多いな、この時代はこれが流行ってるな、とか。また、作られた本数自体が時代によって変化しているのもわかります。映画産業の各時代の状況が垣間見えますね」(藤原さん)

「また、昔の映画を見ていると、今の“当たり前”がいかに当たり前でないか、もよく分かる気がします。私たちはついつい、物事を今の自分の価値観で見てしまいがちですよね。でも、自分が生まれるはるか以前の作品を見ると、自分が今しているものの見方も実は特殊なんだ、ということに気づかされる。映画は、自分を歴史の中の存在として相対化しやすいメディアなのだろうと思います」(藤原さん)

 

「(ドラマや映画の撮影現場で)新しいものを作る仕事をずっとしてきましたけど、過去のものを調べる仕事に変わって、「こんなに面白いのか」と思ったんです。過去が今につながり新しいものを産んでいる。過去を調べれば調べるほど、未来がわかっていく。「過去を調べれば未来は輝く!」と思いますね。そういう映画のセリフもありましたけど(笑)」(石川さん)

石川さんらによって、映画の歴史がアーカイブされる映画図書室。今もその歴史は太秦で歩まれています。

「過去を知らないと、今の自分は輝かない。自分が生まれる前のものを知れば知るほど、自分の中がプラスになっていく。それがここに揃い、今も更新されている。そんな感覚を味わってほしいですね」(石川さん)

太秦に流れる悠久のキネマの歴史は、今も確実に未来に繋がっているようです。花の匂いあふるるこの季節、みなさんもぜひ映画図書室に“カムカム・エブリバディ”!

 

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東映太秦映画村・映画図書室

■場所:東映太秦映画村・西隣(〒616-8586 京都市右京区太秦東蜂岡町10)

■開館時間:10:00〜16:00

■定休日:土・日・祝・年末年始

 

■収蔵資料

・映画ポスター:約3万点

・台本:約1万5千冊

・スチル写真:10万点以上

・映画関連書籍:約7千点

・映像ソフト:約5千点

・映画プレス資料:約1万点

 

※資料の閲覧には、事前予約が必要です。

詳しくは「東映太秦映画村・映画図書室」ホームページをご確認ください。

 

■地図

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この記事を書いた人

山田 大地

1988年生まれ、立命館大学大学院社会学研究科修了。修士(社会学)。京北での産学民連携プロジェクトを経て、右京区まちづくりコンシェルジュ(〜2019)。立命館大学政策科学部非常勤講師(2016年〜2020)、大谷大学 地域連携アドバイザー(2019〜2021)。現在、京都市まちづくりアドバイザー。